『ラスト・ターゲット』評
【解説】
マーティン・ブースの『暗闇の蝶』(旧題『影なき紳士』)をジョージ・クルーニー主演で映画化したクライム・サスペンス。裏社会からの引退を決意した男が、イタリアの田舎町に身を隠し、最後の仕事にとりかかる姿をストイックなタッチで描き出す。監督は「コントロール」のアントン・コルベイン。
スウェーデンで女といるところを何者かに襲われ間一髪のところで危機を脱したジャック。闇の仕事を生業とする彼は、イタリアの小さな町カステル・デル・モンテに身を隠すことに。休暇にやって来たアメリカ人のカメラマンとして、神父をはじめ町の人々とも触れ合いながら静かな生活を送っていく。そんなある日、組織を介してマチルデと名乗る若い女から減音器付き狙撃ライフル制作の依頼を受ける。この仕事を最後に足を洗おうと考えるジャックだったが…。
<allcinema>
ラスト・ターゲット |
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The American |
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監督 |
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脚本 |
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原作 |
マーティン・ブース |
製作 |
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製作総指揮 |
エンツォ・システィ |
出演者 |
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音楽 |
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撮影 |
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編集 |
アンドリュー・ヒューム |
キャスト
役名 |
俳優 |
日本語吹替 |
ジャック / エドワード |
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クララ |
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マチルダ |
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ベネデット神父 |
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パヴェル |
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ファビオ |
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スウェーデンで女といるところを何者かに襲われ間一髪のところで危機を脱したジャック。
闇の仕事を生業とする彼は、イタリアの小さな町カステル・デル・モンテに身を隠すことに。
休暇にやって来たアメリカ人のカメラマンとして、神父をはじめ町の人々とも触れ合いながら静かな生活を送っていく。
そんなある日、組織を介してマチルダと名乗る若い女から減音器付き狙撃ライフル制作の依頼を受ける。
この仕事を最後に足を洗おうと考えるジャックだったが…。
ネタバレ注意
本作の特徴は、ミスリードへの誘導、用意周到な画作りと編集である。
ミスリードに関して、解説を補足する。まずこのプロットは二手に分かれている。多くの映画は二つ以上のプロットから構成されているが、メインとサブに分けられ、サブがメインの方へ第三幕目に絡み作品は終結する。しかし、本作からは二つのプロットのうちどちらがメインなのか、困惑させられる。
マチルダ関係の件。彼女はあくまでも仕事の仲介人であり、本来の依頼者の男パヴェルがいる。ちなみに彼はジャックの裏社会での悪行を熟知している。イタリアのとある市街地にて、ジャックはマチルダからライフルの素材を渡され、彼はそれを組み立てる。試作品を組み立て、彼女とともに試し撃ちするこの際、彼女が彼を襲うフラグが立っているが、結局何も起こらない。その後、彼は改良版のライフルを完成させ、とあるレストランにて大金で取引成立させる。このレストランに子供たち数十人が入っていくのがミソ。これは安全な場所で行われたことだと分かり、観客は安心してしまうから。
一方、クララの件。彼女は娼婦であり、ジャックが何度も指名するうちに彼に恋してしまう。彼女は平時でもジャックと会うようになる。彼はイタリアにて主に神父、例の娼婦などと日常的に接触するが、二人とも彼の血塗れた過去に関して次第に仄めかしてくる。
クララはある日、売春婦連続殺害事件の報道を聞き、拳銃を待つようになる。また、クララが剣呑な男たちと密会しているのをジャックは目撃。このようなプロットがある一方で、彼女は彼とのデートを重ねていく。二人だけの時間が長いため、いつ彼女が彼を殺すのか緊張が走る。
だが、結果として彼と彼女がデート中に、彼はマチルダから例のライフルで狙撃されそうになる。
一方、監督のアントン・コルベインは偏執狂なまでに画や編集にこだわり抜いている。
例えば、急斜面の丘地にある住宅街の麓をジャックが横切るショット、住宅街の中腹に神父が立っている。その後ジャックは例の神父と出会う。この神父は後にクララとともに観客の予想をミスリードさせる人物、つまりプロット上重要な人物である。
また、例えば冒頭、雪原の大地でジャックはスナイパーから襲われるが、その直前、カメラはジャックと彼が後に殺す女を遠景から捕えている。このショットがスナイパー視点なのは明らか。同様にあるシーンから次のシーンへと繋がれる編集も特徴的。市街地全体俯瞰のショットから、ジャックがそこの局地で佇んでいるショットへ移行するシーンなど。
コルベインは神の視点からすべてを駒のように動かしているのだ。