『クロノス』

『クロノス』(92

 デル=トロの商業監督デビュー作でスペイン映画のヴァンパイアホラー。

16世紀、スペインの錬金術師によって作られたクロノス。それは永遠の命を得られると同時に人間の血以外受け付けないヴァンパイアへと変貌させる。幼い孫娘と平和な日々を送っていた骨董屋の老店主へスス(フェデリコ・ルッピ)は、ある日、陶器の中に隠されていたクロノスを発見してしまったことから、ヴァンパイアと化した自分に恐怖を抱きながらクロノスを巡る様々な陰謀に巻き込まれていく……。

クロノス強奪を企むチンピラ役としてデル=トロ作品常連のロン・パールマンが早くも登場。ヨーロッパの芸術映画らしい格調高き音楽や照明と、それらとは対照的でハマーフィルム的なB級感が画面のタッチや特殊メイクから漂う不思議さで、デル=トロの作家性がこの作品から滲み出ている。ヘススが一度誤って噛み付かれ、その後何度もクロノスに噛み付かれる様は、麻薬を射つ瞬間で危険な快楽に浸っていくような恍惚感にも見える。へススが首から人間の血を吸う演出は『ノスフェラトゥ』(78)を思わせる静謐さと優美さだ。劇中、へススが一度瀕死の状態から蘇った後から生死を彷徨うかのようなグレーの照明で一貫しているが、一度へススを亡き者と認識していた妻に迎えられるためにクロノスを壊し、再会する瞬間暖色の照明が灯り、へススの死と共に青白い照明に変わっていくシークエンスはリリシズムを讃えているようだ。