『ミミック』(97)

 

 

 デル=トロの監督二作目であり、アメリカ映画デビュー作のモンスターホラー。

ニューヨークでゴキブリを媒介とした疫病で子供達が大勢亡くなる事態が発生。対抗策として、昆虫学者のスーザン・タイラー博士(ミラ・ソルヴィーノ)らはアリとカマキリの遺伝子を配合。さらに半年以内に死滅して、雌を不妊にさせる遺伝子操作も行った“ユダ”を創造した。それらは媒介となるゴキブリを殲滅に近い形で駆除した益虫に思えた。三年後、ニューヨークの地下で人間が次々に失踪する事件が発生。スーザンは偶然にもある少年からユダらしき昆虫を渡される。調査の進展により、オスが突然変異を起こしてユダが大量繁殖し、人間を捕食していることが判明。刑事と昆虫学者らは、地下に潜むユダの退治に向かう……。

タイトルのミミックは擬態という意味。人間に擬態するためこのタイトルである。

また本作のユダは、イエスの弟子十二徒のうちの一人で、イエスを裏切ったため、キリスト教圏では「裏切り者」の代名詞として使われる。

  冒頭、スーザンらが大量の蠢動するゴキブリを捕まえるシーンを見て我々観客は生理的な恐怖を味わうことになる。それは後に幾度となく感応させられる気味悪さの予兆だ。前作でのクロノスからゴキブリが這い出る瞬間の不気味さと重なる。ユダには蠕動する効果音やその他の演出においてデル=トロのモンスター演出力を思い知らされる。以前、特撮博物展にて「怪獣には独創性溢れる効果音が不可欠だ」という解説を読んだ。デル=トロは正にそれを体現していると言える。ユダの操演はそれぞれ異なった演出であり、『エイリアン』(79)の捕食演出や『死霊のはらわた』(81)の死霊目線から高速で人間を追いかける演出など、先行作品の優れた演出を適材適所で活用している。さらに、ジョシュ(ジョシュ・ブローリン)が地下でユダから逃げてとある部屋の床から上半身だけ突き出した直後に、噛み千切る効果音と上半身の血飛沫だけで捕食を伝える演出には瞠目した。ユダの(肺やその他臓器を持つ)臓物は牛や豚の血抜きする前のホルモンのような造形で、そこから体液が横溢するのも説得力がある。ユダの体液は終盤物語上のある重要なポイントとなる。この臓物の質感は、後のデル=トロ作品でも頻繁に継承される。物語後半、ユダがスーザンを攫って辿り着いた場所は死屍累々な光景であるが、青白く美しい照明はユダの冷酷さを物語る。このライティングは、ビジュアルで他の事を物語るのに大変意識的なデル=トロの資質を反映しているものだと言える。クライマックス、同じ研究者として恋人のスーザンに水をあけられたピーター(ジェレミー・ノーサム)が漢気を発揮するとあるシークエンスがある。これはデル=トロの恋人または夫婦関係の反映かと勘繰りたくなる。彼は『クロノス』(92)製作時に借金が日本円で25億あった事を別の作品のコメンタリーで告白している。そんなことを踏まえると例のシークエンスには快哉を叫びたくなる。