ジョニー・トー『ドラッグ・ウォー 毒戦』批評①

ジョニー・トー。彼の製作(制作)する映画は、ラブコメ、間や仕草の絶妙さで笑いを生むコメディ、パニック・アクション、クライム・サスペンス、クライム・アクションなど多岐に渡るが、特に近年はどれを製作(制作)しても傑作揃いだ。さらに、年に1〜2本撮るのを20年以上続けて来ている。香港を代表するエンタメ職人監督だ。

    本作の設定、ストーリー・ラインは次の通り。麻薬の運び屋チャン・テンミン(ルイス・クー)はあるミスを犯し、中国公安当局に捕まる。中国では一定量の麻薬製造ビジネスに関与すると即刻死刑。そのためテンミンは、巨大麻薬組織への捜査協力と引き換えに、当局のジャン警部(スン・ホンレイ)に減刑を懇願。ジャンはこれを受け入れ、テンミンを入れた組織摘発チームを結成。ジャンとテンミンを中心に潜入捜査が進められる。しかし互いに信頼ならぬ関係性により、常に死の危険と隣り合わった展開に巻き込まれていく・・・・・・。

    ジョニー・トーは特にクライム・アクションを撮らせたら世界一だ。①余分な説明を排し、小道具やワンショットで展開させるストーリー・テリング。②人物たちの生き生きとしたダイアローグ、もしくは言外のやりとり。③独特の外連味あるルックでありながら、同時にサスペンス性を保ち、さらにワンショットワンショットに情報を詰め込んだ銃撃戦。特にそれら三つの要素を絡め、一作一作毎回目新しいクライム・アクションを観客に呈示してくれる。それが世界一と言える所以のジョニー・トー印だ。

    今作の舞台は香港ではなく、初めての中国本土。ジョニー・トーは今までの50作品のほとんどで、香港を舞台に制作してきた。中国本土では検閲が厳しい。公安の正確な描写、公安の扱う銃の統一、死人の量の制限、銃撃戦の制限他、数々の検閲に苦しめられてきたことをインタビューなどから漏れ聞く。しかし本作は、①余分な説明を排し、シビアでキビキビとしたストーリー・テリングで、潜入サスペンスを牽引。②公安のジャンが潜入捜査の最中、敢えてコカインを吸って見せ、大量の水分補給と氷風呂への入水など、ハッタリを利かせたコミカルな演出。③銃撃戦では、組織側のとある人間を、用意周到且つ数々の銃種を自在に駆使出来るといった設定とし、彼らは公安側を出し抜くため、サスペンスは緊密さを保持。

   以上三つの要素の例から、検閲を突破、または上手く交わしてきたのが伺える。本作もまた例に漏れず、目新しい脚本・演出などから、何処をとってもジョニー・トー印なのが伺える逸品だ。